■「独自色のアピールを」
鹿児島市の相良病院では、地元の観光協会やホテルと連携して、検診サービスと観光を組み合わせたツアーの提供を企画している。
同病院は、婦人科や乳腺科などがメーンの「女性のための専門病院」。
運営主体の特別医療法人博愛会の担当者は、「地域医療をカバーするだけでなく、今後は海外を含めた地域外のニーズにも対応していきたい」と話す。海外の患者の受け入れ実績はまだないが、引き合いがあれば、国内の患者と同じ料金で対応する方針だ。
医療ツーリズムが活発になり、海外の市場を開拓できれば、日本の医療機関にとって新たな生き残り戦略につながる可能性があると、多くの関係者が期待している。
課題もある。
シンガポールやタイ、韓国といった医療ツーリズムの「先進」諸国に、後発組の日本がどこまで太刀打ちできるかがそもそも不透明だ。「治療=欧米」「健診・検診=シンガポール・タイ」「美容=韓国」といったように、これらの諸外国はそれぞれの強みを発揮して海外の患者を獲得している。
近年では、中国も医療技術や医療機器の水準を急速に向上させている。日本の医療ツーリズムでは、中国の富裕層をターゲットに想定して健診・検診と観光を組み合わせるケースが多いが、果たしてこうしたサービスで日本にどれだけの優位性があるのかもよく分からない。
実際、旅行会社大手JTBグループの「ヘルスツーリズム研究所」が中国人富裕層を対象に行ったインタビューでは、「日本の医療の優位性が不明確」などといった指摘が多かった。同研究所の高橋伸佳所長は、日本ならではの独自色をどれだけアピールできるかが、新規参入の成否のカギになるとみている。
医療領域での情報連携支援などを手掛けるアクセンチュア(東京都港区)の市川智光氏は、「健診や検診の文化がなく、健康診断で異常が見付からなかったら『お金を返せ』という考え方の国もある。相手国の医療に対する文化的な背景も含めた取組みが求められるのではないか」と指摘している。
■「安易なビジネス論」に懸念も
ビジネスとしての側面を強調して医療ツーリズムが語られる日本の現状に、危機感を抱く関係者もいる。
諸外国の医療ツーリズムの取り組みに詳しく、韓国やマレーシア政府の実質的なアドバイザーを務める日本旅行医学会の篠塚規専務理事は、外国人患者の受け入れについて、「いいことだけでなく実際にはトラブルも多い。日本では、海外の失敗例を知らずに議論している。安易にビジネスととらえると、(日本の医療ツーリズムは)数年で廃れてしまうのではないか」と危惧している。
医療ツーリズムの活性化を図るには、経済の側面だけでなく、▽国際的な標準から外れていないか▽医療現場にどれだけの余力があるか▽医療倫理から逸脱していないか▽患者や医療機関にどのようなリスクがあるか-などを詳しく分析する必要があるというのが篠塚氏の考え方だが、現状は「思い付きだけで動いているように見える」。
例えば言葉の問題だ。一歩間違えば健康や命に直結しかねないだけに、医療用語はそれぞれの国の言葉に、正確に翻訳・通訳する必要がある。通訳者のスキルを担保しようと新たな資格をつくろうとする動きもあるが、篠塚氏はこうした取り組みに慎重なスタンスだ。医療通訳の肩書きを悪用して、外国人患者を特定の病院に誘導して報酬を受け取ったり、急病の外国人に法外な料金を請求したりするケースを他国で実際に見てきたからだ。
「海外では、患者側が自分たちで医療通訳を用意したり、ボランティアスタッフを活用したりしている。通訳者を教育するのはいいとしても、資格をつくる動きは国際的なスタンダードから逆行する」と篠塚氏は指摘する。
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